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性同一性障害、自称と本物?

 SNSで、自称性同一性障害GID)と本物は話をしたら分かると書いている人がいた。本当に見分けられるものだろうか。このテーマはGID界隈では深刻なもののようだ。

 

d.hatena.ne.jp

 

 この記事は、性同一性障害を専門とする「はりまメンタルクリニック」院長の針間克己医師のブログだ。以下、引用。

 

 そのため、「あなたは、ただの『自称性同一性障害者』であり、本物の性同一性障害ではありません。ですから、ホルモン治療や手術を受けられません」などと言われることは、望まない。そういった事態を避け、反対の性別に近づく身体治療を確実に受けられるように、典型的な性同一性障害患者像であるように自己を見せようとする場合がある。

(中略)

 こういったさまざまな性別違和の中で、どのような程度、種類のものが性同一性障害といえるのかは、診断基準の中で必ずしも明確にされているとは言い難いため、なにをもって「本物」と診断するか、その境界は不明瞭なのが実状である。

 

 といった具合に「本物と自称を区別することは不可能」としている。世間はGIDには本物と自称(偽者)がいる、という認識らしい。そうかも知れないが、自称を偽者であるかのように扱うことは問題が多いと感じる。

 自称と呼ばれるのは正式に診断を受けていない人達、および診断を受ける気がない人達だろう。これから受けようという意志のある人を除くと、診断を受ける必要を感じない人達ということになる。その理由は「治療を希望しない」からだろうと推測する。診断が必要になるのは治療するためで、治療を必要としないなら診断も必要ないことになる。自分の性別(ジェンダー)は本人が分かっていれば良いことで、他人の判定など本来必要ないものだ。しかし戸籍性別の変更をしたい場合、診断は不可欠となる。目的もなく診断を受ける人もいるかも知れないが、多くは「その先」を考え必要に駆られて診断を受けようとする。

 

 では「治療を希望しない」人々とは誰だろうか。Xジェンダーと呼ばれる性別不定な人達は治療を必要としないかも知れない。どちらかの性別に自分を「適合させる」必要を感じないからだ。治療と言ってもホルモン治療と性別適合手術では随分開きがあるし、FTMなら乳房切除と内部摘出手術ではハードルは随分違う。どこまでの治療を望むかも人によってまちまちだ。

 トランスジェンダーとXジェンダーは自ずから意味が違う。Xジェンダーは性別違和を持つが性同一性障害ではない。同一させるべき性別がないからだ。故にトランスジェンダーではない。英語ではジェンダークィアと呼ばれ、Qと略称される。LGBTQAと綴られるQだ。

 ある意見によると、Xジェンダーは治療を求めない傾向があるらしい。身体違和感があまりないからでもあるし、目指すべき自分の性別イメージがないからでもある。自分の現在の状態を「自らの性」として受け入れる人もいるらしい。自分でFTMかFTXかを判断するとき、これは1つの基準になるかも知れない。

 そうかと言ってこれらFTXが自称の偽者というわけではない。多くの人々が「女ではない」と言うと「じゃあ男なんだ」と思ってしまう故の、「他称されるGID」だ。性別二分法、男女二元論の弊害だろう。Xジェンダーの多くはGIDを自称することもないだろう。

 

 自分が「自称」の人々を多く見かけるのはレズビアン・コミュニティだ。自分はレズビアンではないのでそういった界隈に詳しいわけではないが、垣間見える中にFTMまたはFTXを自称する人達の一部に強い違和感を持つ。レズビアン・コミュニティに身を置けるのだから、当然と言えば当然だろう。自分は高校受験時、女子校を拒絶して共学校に行ったほど「女の枠」に入れられることが苦痛だった。自分と同じでなければいけないとは思わないが、女性枠に安住できるのなら性別違和は小さいのかも知れないとは思う。

 レズビアンであることと性自認は何の関係もない。針間院長も「鑑別すべきセクシャリティや疾患」に「同性愛」を挙げている。日本では異性愛規範が非常に強いため、そして男女二元論が強いため、女を好きなら男にならねばという強迫観念が生じやすい。最近はSOGIという言葉も知られてきているが、そういった錯誤はまだまだありそうだ。性自認が女性なのに性別を男になったら悲劇しか待っていないのは当然だろう。

 これらレズビアン・コミュニティの自称FTMやFTXの中にも「本物」は混じっている。中にはGIDとして治療を望む人もいるだろう。しかし、自称FTXはもちろん、ダナーやボイタチの中にいる自称FTMの多くも治療に至らないのではないだろうか。特に若い人達に見受けられるこの用語の混乱は、レズビアン・コミュニティ内でSOGIの知識が深まれば修正されるのかも知れない。

 

 「FTMなら性別適合を望む、FTXなら治療を必要としない」という紋切り型の判断も間違っている。自分は性自認が男でXではないが、性別適合という点ではXに近い。身体違和はあるものの自分の体に長年慣れてしまってもいるし、醜形恐怖から改造したい部分はあるものの、完全に男になれる素質がないのも自覚している。結果、GIDを自称せず性別違和(GD)を自称しているのだが、ホルモン治療は受けたいし乳房切除もしたい。内摘手術はあまりしたくなくて、卵巣は取れたら取りたいが子宮を取るのには抵抗がある。切り開く大きさの問題や邪魔さの程度が理由だが、もちろん経済的問題が大きい。

 前にも書いたように、性的対象が女性でないから自分が完全な男にならなきゃいけない、という焦りがない。これは大きい。性自認が男でもヘテロ男性はあまり気にしない人も多いし、世の中にはFTM好きの男性というのもいる。ちょうどMTF好きのトラニーチェイサーと呼ばれる人達の反対だ。少々生々しい話になるが、性的対象が男のFTMには女性器で性行為を行うことができる人も珍しくないし、女性器が無理でも肛門性交ならできるかも知れない。相手になる男としては全然困らないわけだ。

 こういった点から「社会的な必然性」を持たないFTMゲイは埋没し、違和感を抱えながらもボーイッシュな女性として普通に生きて結婚したりもする。そうであっても、さすがに子供を産む人は珍しいと聞いている。

 

 FTMの情報が知られれば知られるほど、思い込みと決めつけによるステレオタイプが形成されていく。それは部外者だけによるのではなくて、当事者も盛んに行っているのだから呆れる。ステレオタイプに縛られないためにFTXと自称することにしたら、FTXにすらステレオタイプが形成されつつあるようだ。どこまで行っても類型化と偏見・均質化と同調圧力からは逃れられそうにない。

 そういうことを盛んにするのは、やはり若い世代が中心のようだ。男女のステレオタイプが強いのも若い世代が中心。それは当然のことで、まだまだ人生経験が少なく出会った人間の数も少ない。そこを責めるのは大人げないというものだ。一方で、若い世代は多様性に寛容だし、偏見や差別も少ない人が多い。自分が二十歳の頃なんて実に酷くて、今からだと信じられないような暴言が問題視もされず平気でまかり通っていた。

 自称の人達を責めるのではなく、何か勘違いしてるのかも知れないと見守っておけば良いのではないだろうか。もちろん、当人の性自認を他人が否定するなど御法度である。どれほど「どこから見ても女」だとしても、本人が男だと言い張るのだから男なのだろう。実際、自分から見たら女としか思えないようなメンタリティのネイティブ男性など珍しくもないのだから。

 しかし、「最終的で不可逆的な治療」に関しては十分に慎重であるべきだ。最近ネットでネガキャンが盛んな、術後の体調不良の話もどこまで本当なのか分からないのだが、乳房切除くらいなら後からシリコンを入れれば何とかなるが、内摘手術の不可逆性・ホルモンが出なくなる影響は計り知れない。