言いたいことは山ほどある。

性別や障害、属性で気になること。

森田療法について

 森田療法というのがある。慈恵医大の森田正馬博士が創始した精神療法だ。知ったのは随分昔だが、自分に合っているので今でも調子が悪くなると行う。若い頃から仏教の影響が強かったので、馴染みやすい考え方でもある。ただし見よう見まねで、ちゃんとした治療は受けたことはない。

 

◎「あるがまま」を受け入れる

 

 森田療法は禅からアイディアを採っている。「あるがまま」を肯定し、「とらわれ」から離れることを目標とする精神修養だ。

 ウィキペディアから森田の言葉を引用する。

 

・治療の主眼については、言語では、いろいろと言い現わし方もあるけれども、詮じつめれば「あるがままでよい、あるがままよりほかに仕方がない、あるがままでなければならない」とかいうことになる。

・ことさらに、そのままになろうとか、心頭滅却しようとかすれば、それはすでにそのままでもなく、心頭滅却でもない。

当然とも、不当然とも、また思い捨てるとも、捨てぬとも、何とも思わないからである。そのままである。あるがままである。

暑さでも対人恐怖でも、皆受け入れるとか任せるとかあるがままとかいったら、その一言で苦しくなる。

強迫観念の本を読んで、「あるがまま」とか、「なりきる」とかいう事を、なるほどと理解し承認すればよいけれども、一度自分が「あるがまま」になろうとしては、それは「求めんとすれば得られず」で、既に「あるがまま」ではない。

 

 といった具合に、禅問答めいている。

 禅宗の影響が強い僕には森田の考え方は合うのだが、森田神経質でない人にはまったく効果がないどころか悪化する場合もあり、また「治らないのは自分が悪い」と思い込む心配もあり、誰にでも勧められる方法ではない。

 

◎治せるのは森田式神経質のみ
 
 森田療法に向いているのは、以下のような気質の人とされる。

 

・内省的な性格(自分が悪いのじゃないかと発想できる精神)

・細かいこと、些細なことを気にする(繊細である)

・完全主義(から来る心配性、および心気症)

・プライド・自尊心が高く、負けず嫌い(闘争心がある)

・治りたいという強い意志、生きようとする意志、向上心が強い(意志的である)

・論理的、理屈で物を考える(論理的である)

 

 といった性質から神経質な気質を持っていて、それが原因で神経症を発症したものを「森田式神経質」と呼んでいる。

 項目を見て頂くと分かる通り、森田式神経質の人は素質が高い。しかし適応力が低いため、舵取りが難しい。その舵取りを習得するのが森田療法ということだろう。

 

◎療法の方法と過程

 

 森田療法禅宗生活様式を取り入れている。禅宗では坐禅をするのと同じくらい重視されるのが「作務」と呼ばれる作業だ。掃除と調理が中心。森田療法は精神修養と言われるのはこのためだ。

 まず布団に横になったまま、何もしない期間がある。動きたくなるまで、いや動かずには我慢できなくなるまで、食事とトイレ(と洗面)以外はただひたすら横になっている。他人と会うことも避ける。こうすると内面に眠っている生命力が目を覚ます、という考え方だ。

 動きたくて我慢できなくなったら、布団から出る。身の回りの片付けなどの軽作業をする。人と顔を合わせても話したりしないようにする。

 体が慣れたら、作業期に入る。起きてる間は常に体を動かし続け、余計なことを考えない。目の前の作業に集中する。人とは事務的な要件のみを話す。作業は義務化してはいけないので、毎日同じことをする必要はない。やりたいことをすると良い。

 最後に社会に戻る準備期間を置いて完了。

 

 この方法の良くできている点は、最初に横になったまま一定期間を過ごすことで、疲れた体と神経を休める点。何もしないで寝ているというのは結構つらい。うつ期なら眠れるが、そうじゃないならそんなに無闇には眠れないが、本人の疲れ(ダメージ)が酷いほど長期間寝ていることになる。

 入院ではこの期間が決まっている(5日~1週間)が、ジッとしていられなくなるまで半年でも寝ていると良い。その間、焦りなどもすべて放置してしまう。禅宗の言葉で「放下著(ほうげじゃく)」という奴だ。意味は「(すべて)捨て去れ」。何も抱え込まず、すべて手放してしまえという意味。

 人と会わないのは重要なポイント。人と話すと刺激を受け、反応が出てしまう。反応は自分の本来の考えと違う場合もあり、外部からの影響を受けたことになる。外部からの影響を遮断することが「自分本来」を再発見するために重要なのだ。

 入院だと軽作業期が3日~1週間だが、作業期への移行は「もっと動きたい」「もっと動ける」という内面の声に合わせると良い。寝ていた期間が長ければ長めに体を慣らす。体力と気力があるなら早めに作業期に移行する。軽作業期は長すぎてはいけないので、1週間以内。

 軽作業期でも作業期でも、何かをする時は目の前のことに集中する。全身全霊で取り組む。作業が完了したら、十分に達成感を味わう。これは自信を取り戻すことにもつながる。作業は何でも良いが、できるだけ単純なものが向いている。掃除、調理、土いじりなど。

 作業期は早寝・早起きで規則正しい生活をする。遅くとも朝5時には起き、夜9時には寝る。早寝・早起きをしていると夜には頭が働かなくなり、余計な考えを巡らさなくなる。

 

◎適用症状

 
 森田療法の適用は以下のような症状とされる。

・不安障害

パニック障害

対人恐怖(社会不安障害

強迫性障害

心気症(自分はどこか悪いのではないかと常に心配する不安障害)

自律神経失調症

森田式うつ(抑うつ神経症

不眠症

 

 今はうつ病抑うつ神経症を同じものとすることが多いが、森田式では分けて考える。若年性抑うつ神経症などとも呼ぶが、思春期から壮年期に発症する原因のあるうつ状態適応障害で、器質的なうつ病とは分けて考える。

 以前はうつ病にはこの2つがあるとされたが、今は医者も区別しない。抑うつ神経症は比較的短期間で完治すると言われる。器質的なうつ病は数年かかるとされる。更年期や高齢期に出るうつ病は器質的なものと考えられている。(器質的とは、セロトニン量の低下、セロトニン受容体の不足、その他の脳内の不調などで、治療には投薬を必要とする。)

 

welq.jp

 

森田療法の問題点

 

 「あるがまま」という考え方は分かりにくく誤解を与えやすいという指摘もある。あるがままを肯定するという事ではない。どうしたって肯定できない部分はある。有り様を「そのままにしておく」という意味に近い。肯定も否定もしない。評価を下さない。ただ、そのようにあるのだからどうするか、を考える。このあたりは仏教の「無分別智」に通じるので、少々理解しにくいと思う。

 また、森田療法は精神修養に近いので、治癒した者に独特の「くさみ」があるとも言われる。まるで悟りでも開いたように(実際、完治することを「悟る」と呼ぶ)他人に意見する人が出てくる。これは他の療法でもよく見かける光景だが、迷惑極まりない。

 向き・不向きの大きい森田療法は誰彼構わず勧めるものではないし、「やりたい」という本人の意志が何より重要だ。しかし、「これで絶対治ってやる」という力みはしないほうが良い。先入観なしに、ただ自分の内部で起きることを観察する。「一か八か」といった気持ちのほうが良い気がする。

 「治る」と言っても気質が変わったり、神経質でなくなったりはしない。薬も使わないことが多いらしい。自分の神経質な気質を上手くハンドリングする方法を学ぶ、という感じだ。